ちょっとした地震で倒壊してしまうような建物として設計、構造計算を行ったアネハ氏。その変わった苗字、一時代前の民家然としたような自宅兼事務所、そしてこれだけ範囲、生命・金額ともに多大な影響を与えながら飄然とカメラの前に現れる様子。あらゆる面で違和感を覚え、「いったいどうなっているんだ。」と感じてしまう。
一言で言えば、「ズレてる。」ということなんだろうが、そのズレ方が凄まじい。一方、得意先から「圧力」をかけられている(と彼が主張している)以上、自分に主体性が存在しなかった、あるいは、ある意味で自分も被害者である、と感じているのかもしれない。このままでは彼がスケープゴートにされそうだが、そうでもないような動きも見え始めてきた。実際、あれだけの鉄筋を抜けば構造強度に致命的な影響を与えることは、素人目にもすぐわかる。ということは、そんな現場しか知らない新人は別にして、受け止め方の深刻さの程度はともかく住民以外の関係者は全員がその事実を知っていたとしか思えない。
そんな「公然の秘密」の中で、関係者みなが日々淡々と業務をこなし、住民は嬉々として新築マンションに引っ越していったのだと思う。
歯の数を減らしてでも、歯車になることを受け入れたアネハ氏だが、彼の周りの歯車だって歯の数を合わせることによって、その回転を維持してきたわけなんだろう。アナタがアネハ氏の立場にあったとして、適切な歯の数を維持することによってシステムから取り替えられてしまう恐怖に抗することができただろうか。独立開業している建築士にして、このザマなのだから組織に完全に組み込まれたサラリーマンであればなおさらだろう。
実質的に計算チェックを行っていなかったイーホームズ。そら、仕事は速いだろう。検査員の大半が公務員OBだったということだが、公務員時代も同じような仕事ぶりだったんだろう。社会全体がマニュアル化する中で、「効率」を求めるため、「表マニュアル」と「(口伝のものも含めて)裏マニュアル」が生まれてしまう。いろいろと批判されることの多いマクドナルドだが、(一応)表マニュアルを守り続けている姿勢は、この際、すばらしいと言うべきなんだろう。
「衣食住」のうち、「食」は偽装事件などで安全神話は崩壊済み。「住」も材料面でのアスベストのみならず、今回の一連の事件で構造面でも不安が高まった。また、「衣」はともかく「医」も一向に見直されない密室医療と国民皆保険の崩壊の兆しで、安全を期待する方がむしろ不見識なようにみられるほどの状態。
高度にシステム化された社会においては、個人的な努力だけでは健康で人間的な生活を望むべくもないのか。
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