責任に時効なし-小説巨額粉飾
責任に時効なし-小説巨額粉飾 嶋田賢三郎 アートデイズ ¥1,890
著者は恐らく本当は実名で書きたかったのだろう。巻末に次のような記述が見られる。
「この物語は、著者が当事者として体験した一企業の粉飾事件とその後の企業崩壊に取材したもので、関係者に対する配慮から登場人物や状況設定の一部、並びに団体名等をフィクションとしました。」
著者は2004年に常務取締役兼常務執行役員・財務経理担当としての職を辞すまで㈱カネボウに身を置き、その行われてきた期間の長さ、金額、関係する部署・関係会社等の広がり、そしてその手口のバリエーションにおいて、日本経済史上、空前絶後といっていい粉飾に関わった。その後、カネボウは化粧品部門が花王(書中ではそのロゴマークの連想からか、クレセントという社名で登場。)に引き取られ、残りの事業はクラシエとして再出発することとなったが、同社の30年に渡る粉飾の経緯を眺めれば、粉飾こそがカネボウの組織風土であり、伝統であったと言っても過言ではなかろう。それにしても、この粉飾文化も異様なら、労働組合に経営陣が壟断されている様も、まことに異様であり、いずれの点も内向きの姿勢からこそ生まれてきたのではないか。そして、時効の壁に阻まれるなど、巨悪はここでもよく眠ることとなった。
小説自体は、著者自身が主人公となっており、艶話のサイドストーリーも含めて、いささか格好よすぎるように感じられ、ストーリーに引き込まれてしまう分だけ、余計に「一方の当事者からの記述」であることに気を置きながら読み進める必要を感じた。とはいえ、委員会報告66号の会社区分や、逆さ合併の下りなど、難解になりがちな箇所をくどくならずに平易に書き流してあることに象徴されるように、筆致が巧みなこともあり、非常に読みやすかった。読みやすいということは、読むスピードが速まるということであり、これは結果的に全体像を掴みやすくなることにつながる。
565ページの大作ではあるが、本来はもっと大分なものであったのだろう。泣く泣く削ることとなった箇所も、目にしてみたいものである。そして、平成14年度決算に係る記憶が飛んでいたため、一時的にではあれ、主人公(著者)が非常に厳しい立場に追い詰められることとなるが、この時代、立場の軽重に関わらず、こういったことは誰にでも起こりうる恐れを感じる。日頃から脇が甘くならぬよう、神経質すぎるぐらいでちょうどよいのかもしれない。息苦しい世の中になったものです。
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