文藝春秋 2009/3
芥川賞の受賞作が掲載されていたこともあるが、全体的に今月号は読みごたえを感じた。
まず、受賞作津村記久子さんの「ポトスライムの舟」を読む。関西を舞台にしたアラサー女性4人の常識的な日常とそこからの飛躍への期待と焦燥、挫折を淡々と描いた作品と受け止めたが、舞台の一部が神戸、三宮であったことも親近感を持って読み進めた要素であったように想う。芥川賞に時々みられる非日常的な設定でなかったことも安心して読めたのかもしれない。選評。あいかわらず石原慎太郎さんが辛辣。村上龍さんも結構キツイ。思えば、初めて芥川賞受賞作として意識して読んだのが「限りなく透明に近いブルー」か「エーゲ海に捧ぐ」であったと思うが、いずれもエロチックな(前作はそれに加えて暴力描写も)描写が過激で、「純文学ってスケベェやな。」と中学生なりに感じたものだった。ポトスライム。途中までポストライムだと思い込んで読み進めていた。
特集は経済一色。トヨタ張社長、ものづくり、丹羽vs湯浅、中谷先生の懺悔・・・。少々失笑ものだったのが、中野翠さんの「歌舞伎座取壊し 私は許せない」。見出しは編集部がインパクト重視でつけただけであろうが、重要文化財にもなりえない少々珍しいだけの一企業(松竹)が保有する建物の取り壊しを松竹の重要なステークホルダーでもない中野氏が「許さない」という傲慢。国民が生存権を脅かされる現状にありながら、歌舞伎座を重文指定して税金を投入せよ、とも。主張するなら松竹に対して200億円ぐらい寄付されてはいかがか、と感じた。そんなことが現実的でないのは当然だが、それならば寄付を募る運動で集金すればよい。そこまでのエネルギーはおそらくお持ち合わせではないであろうから、愚痴半分に寄稿されているのか。こういうのをペンの暴力とでもいうのだろうか。松竹の台所事情に触れる下りはみられたが、少しはそこで働く従業員のカオを思い浮かべる想像力はないのだろうか。尋常な庶民感覚なら、通りすがりの外国人観光客が歌舞伎座に対して見せるひと時の日本趣味への驚きの表情よりも、そこで働く日本人とその家族の日常の大変さを思いやるのではなかろうか。その点、カーメカーがF-1、ダカールラリーなどレースから苦渋の選択による撤退を決めたことは、レース関係者には辛いことなれど、地に足がついた決断であったと皆が評価しているのではないだろうか。中野さんの主張は、困窮者にとってはマリーアントワネットが「パン(給料)が食べられないのならケーキ(文化=歌舞伎座)を食べればいいのに。」と漏らしたセリフとたいして違わないように受け取れらるようにも感じた。
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