ロスト・シンボル 上・下 ダン・ブラウン 角川書店 各¥1,890
目下、耳目を最も集めている書と言えるだろう。「天使と悪魔」は読まなかったものの、執筆順では本書の直前(といってもずいぶんなインターバルだが)に当たる「ダ・ヴィンチ・コード」の読後感が、まぁまぁ、といったところだったこともあり、本書も食指が動かなかったのだが、職場の後輩から、古文書に超ひも理論の記述があった、との下りを仄めかされ、緊急購入。
フリーメイソンが数多の陰謀に関わってきた、との偏見は世間に多く流布されており、最近では鳩山一郎氏がメンバーだったとか、果ては坂本龍馬まで、といった話も目にする。私自身も父親から聞いた話で、知り合いのユダヤ系の方が、入会の儀式の折、照明を落とした部屋での尋問があった、などというのを聞いたことはあるが、それは絆を堅固なものとする手段でしかないであろう。また、一度だけ、フリーメイソンの集会が行われている施設で打ち合わせをしたことがあるが、その集会をする部屋にはその旨の貼り紙がしてあったし、案内用の札も掲げてあった。もっとも、その施設自体、通常は日本人が立ち入ることのないものではあったが。いろいろ憶測はするものの、話題になるのは、世間ではステイタスを確立したような人物が、いい歳をして子供じみた「儀式」をしている、といったところなのだろう。
本作は、フリーメイソンが大きな舞台設備ではあるが、主題ではない。また、私自身が関心を寄せた純粋知性科学も表面的にはツールの一つのようだ。もっとも、アマゾンに貼り付けてあった著者への日本人読者向けインタビュー動画では、純粋知性科学に関する調査を十分にするため、執筆にこれだけの時間がかかったと述べられていた。「表面的には」ツールの一つのと記したのは、本書のメインテーマである親子関係そのものをまさにドラマチックにしている根本にこそ、純粋知性科学が働いているとみるからである。そのように捉えるのは、考えすぎであろうか。
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