永遠の0
永遠の0 百田尚樹 講談社文庫 ¥920
職場の後輩に「名作だから」と薦められて購読した。確かに名作だった。575ページもあったが、主に通勤の行き帰りの3日間で読み終えることとなった。
若い世代にとって、戦争を知るということは、このようなフィクションを通じてというアプローチを取ることが標準になりつつあるのかもしれない。40代前半より若い世代は、ガンダムを視聴することを通じて、戦争を体感する人が多いという。もはや大岡昇平の「レイテ戦記」や高木俊朗の「インパール」の時代ではないのか。もっとも、若い世代といっても、まともな歴史教育を学校等の教育機関で受ける機会を奪われた世代という意味においては、60代までの大半の日本人が含まれることになるのかもしれない。
思えば、子どもの頃に毎月さんざん読んだ雑誌「丸」の巻末には、戦後、市井に生きた人たちの生の戦記が収録されているのがお約束だった。中には今であれば活字にするのも憚られるほどの、例えようのないような悲惨なものもあったと思うが、小学生の私にとっては、学校で配られる社会の教科書よりもはるかに、真実の重みがあった。幼少期にこのような体験ができたことは、ありがたいことだと感じている。
というようなことで、私のようなミリタリーや戦記に少々の関心を寄せている者にとっては、世代に関わりなく、本書を一読したとしても、戦記、兵器に関する目新しい知識に目を開くといったことは殆ど無いものと思う。戦記などに殆ど触れてこなかった人たちを主な読者層として設定しているようだ。
とは言え、大東亜戦争全般にそれなりの予備知識のある方にとっても十分に楽しめる。主人公は台南空に始まり、終戦直前の鹿屋まで、零戦部隊の主戦場を渡り歩く設定とされているためである。海軍の主な零戦乗り、坂井三郎、西沢広義、岩本徹三といった、エース列伝の趣きもある。狂言回しは、主人公と目される海軍パイロットの孫だが、主人公とともに戦った海軍関係者を訪ね歩き、彼らの回想を追うという手法をとっており、元特攻要員の引退した上場企業経営者と戦後民主主義教育の徒花の象徴としての若い新聞記者を対峙させる形で、大手新聞社の変節を痛烈に批判するシーンなどの見せ場も多い。
なんとも多くのテーマを欲張って盛り込んだ構成だが、終盤、エンターテインメントあるいは人情話としてのどんでん返しもある。また、川又千秋の「ラバウル烈風空戦録(翼に日の丸)」や、福井晴敏の「終戦のローレライ」などに魅せられた向きには、楽しめる作品であろうと感じる。通底するテイストを感じた。
「2009年最高に面白い本大賞 文庫・文芸部門BEST10」の堂々第1位というのも頷ける逸品でした。
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