本は10冊同時に読め! 成毛真 三笠書房 ¥560
まるで聖徳太子の読書版のようなタイトルです。おまけに、副題は「本を読まない人はサルである!」ときました。趣旨はわかるけど、問題発言ともとれますな。
子供の頃からの超読書好きの著者の手になる「読書論」。日垣隆さんや宮崎哲弥さん、中島孝志さんなど、世に読書家として名のある方は多くおられますし、有名人でなくとも年間100冊程度を読まれる方は結構おられるもの。そんな中にあって、著者の特徴は、本を捨てない、借りない、貸さないといったところでしょうか。身銭を切って購入し、(ただし全ては読まない)大事にとっておく。自宅に収まりきらないから、別荘も図書館状態とのこと。マイクロソフト株式会社の社長を務められたくらいの結構なご身分の方ゆえ、といってしまえばそれまでですが、そういった考え方こそを本書では痛烈に「批判」しています。すなわち、人と同じことをしていては、「庶民」のままだ、と言い切っておられるわけです。ここで、庶民とは、親しみを込めた下町の人情味を称する視座ではなく、あんまり考えもなく何となく生きている輩、といった程度の意味で用いられているようです。
乱読という表現が当てはまるとおりの、ジャンル無制限の読みぶりですが、少々偏見が強いはっきりとした物言いの方のようで、明治の文豪を切って捨ててみたり、「金持ち父さん・・・」シリーズをバカにしたような記述が繰り返されたりします。梶井基次郎の「檸檬」なぞ、「わがこころの1冊」として挙げる人が多いにもかかわらず、意味不明で片付けてしまっています。「金持ち父さん・・・」シリーズは、サラリーマンや時間を切り売りするようなタイプの自営業からの脱却を諭すお金哲学書、啓蒙書であり、むしろ著者の共感を呼びそうに感じるのですが、ハウツー本として捉えているのかもしれません。
著者が1,2ヶ月前の(月刊)文芸春秋の今月の10冊の中でモリナガ・ヨウ氏の「1/35の迷宮」を紹介されていましたが、同書に刺激されて戦車のプラモを3台も作ってしまったことがあわせて書かれていました。この記事を読んだ折、ちょっと嗜好が似ているのかな、などと感じていたのですが、本書でこの1ヶ月に読んだ10冊が紹介されていた中でも2冊が既読書であったことでますますその思いを強くした次第。
最終章で「わたしはこんな本を読んできた」との少年時代からの読書遍歴が記されていましたが、真っ先に岩波のジュニア向けの「水滸伝」に驚き。私自身、小学校の5年生の頃に読んだ経験があったためです。その後、6年生のときには吉川英治版の「三国志」に繋がるわけですが。ほかにも、学生時代に「果てしなき流れの果てに(小松左京)」や「百億の昼と千億の夜(光瀬龍)」等のいわゆるハード系のSFを読まれていたことや、「鷲は舞い降りた(ジャック・ヒギンズ)」にも共感。個人的にはSFでも、マセガキだっただけに中高生の頃にわけもわからずにNWものを読んだりしていただけに、むしろ「檸檬」を受け入れる派ではあるのですが。また、高校生ぐらいで読んだ戦争冒険モノでも、「鷲は舞い降りた」(映画は中学生の時にロードショーされました。ドイツ軍兵士がイギリス人の子供を救うために水車に巻き込まれて客死するシーンはトラウマになりそうなほどショッキングでしたが。)よりも、日本人が主役になっている「アラスカ戦線」の方が思い入れが深かったりするのですが、それでも「へぇ~」という印象を受ける箇所は多い本書でした。傾向的には即物的、実際的なものを好まれるようで、観念的なものやファンタジー系のものはあまり挙げられていないようにも思いましたが、人の趣味をどうのこうの言ってもはじまりませんね。
・・・世間では連休が終わった、などと騒いでおられるようですが、結局、日曜日以外は仕事でした。
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